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「つき貫ける合気」研究会レポート(B)

令和5年4月9日開催


つき貫ける合気研究会が東京近郊で開催された。

今回のつき貫ける合気研究会はシーズン3の三回目となり「つき貫ける小手返し」「つき貫ける側面入身投げ」「つき貫ける四ヵ条抑え」の三種類の技がテーマとなった。

今回の3つの技はどれも、形をとることが簡単に出来るのに実際にかけようとすると難しいという共通項がある。

「小手返し」は相手の手首を折り込むようにして相手を仰向けに倒す技であり、「側面入り身投げ」は相手の側面に対して自分の側面を接触させた瞬間に仰向けに倒す技。そして「四カ条抑え」は相手の手首が自由に動けないように挟み込み、うつ伏せになるように誘導して倒す技である。どれも動きに入るまでは非常に簡単でありながら、実際にかけて相手を倒そうとすると難しいと感じる技なのだ。

どの技も櫻井師範は丁寧に他の流派の形と合気道S.A.においての形の差を説明してから動きの練習に入った。

恐らくどの流派にも何かしらの理由が存在してその形となっていると思われるが、実際何種類かの形で技の効果を理解している同士で掛け合ってみると、合気道S.A.の技の形は「相手が反応して抵抗するorしようとする」時に効果を発揮し、逆に「相手が逃げようとする」時にはあまり効果を発揮しなかった。逃がさないように瞬時に技をかける必要があるのだろうと思っていたが、櫻井師範に言わせれば逃げようとしている相手を逃がさないように掛けると怪我をさせる可能性があるから、稽古でやる必要はないとのことであった。確かにそう言われてその頭で稽古をしてみると、相手の反応や抵抗、それに反撃しようとしてくる時には効果を発揮しやすいというよりは、その瞬間にのみ最大限の効果を発揮する事が実感できた。この話の流れで櫻井師範がおっしゃられていたのは、相手の技から逃げる形にならない受けをしっかりさせる事で相手の力の流れを感じ取れるようになれば、自分の技の上達に活かせるようにもなるという興味深いものであった。その後は技を順番に練習していくこととなる。

 

「小手返し」は相手の手首を折り込む際に、自分の手をどうするかという話を入り口として、相手の手首に添えた自分の掌から相手の全身に作用するように自分の力を流し、つき貫けるようにする必要がある。ポイントとしては自分の力が相手の手首に力が集中することがないように、相手の手首、ひいては上半身だけに視点をつけることなく相手全体をぼうっと眺めるというような目付けの話をされていたのが興味深かった。掛からない場合でよく見られるのは、相手の手首を折り込むというよりは押してしまうことで、相手の肘や肩が動く形となってしまい、結果的に相手が全身を使って抵抗したり逃げたり出来るようにされてしまう形である。形自体は非常にシンプルながら、技として使うための難しさはある面白い技となっている。

「側面入り身投げ」は相手の側面に自分の側面を接触させる際、やはり相手を押さないようにする必要がある。

小手返しと同じく肩で相手の胸をちょっとでも押した瞬間に相手は全身を使って抵抗したり逃げたりしてしまい、自分の望む技の形に全くならなくなってしまうのだ。また、うまく相手にぶつからず、押さないように接触できたとしても、今度は自分の側面をうまく使い相手に自分の力を流す必要があり、これも難しい。やはり手と比べると肩や側面というのは自在に動かすことが難しいため、接触した箇所をそのままに有効な力を相手に伝える為の方法論、身体操作が手のように簡単には試行錯誤して試せないからである。相手にぶつからず、押すことなく接触するだけでも難しいのに、そこからほとんど身体を動かすことなく力だけをスムーズに伝えるためには、基本動作をいかに全身を使って表現できるかが重要となる。普段の稽古でいかに丁寧に基本動作をやっているかがポイントとなるという事実は、稽古者にとって希望の持てる話だ。

 

「四カ条」は相手の手首の関節を挟み込むようにロックして、脈部を抑えて倒す、もしくはくるぶし側を抑えて倒す、という複数の入り方が可能な技なのだが、どうしてもこの形に相手の手首を挟む際には、かける側が人差し指の付け根である脈部やくるぶしに骨を押し付ける形で押し込んでしまいやすい。そうなると手首の一部に対して痛みを与えて崩すという形が限界となってしまう。とはいえ稽古者達は勝手に痛みを与えあってしまうので、まず練習であっても痛みで倒れることはなくなってゆく。当然相手の動き全てに対しての警戒度を高めている試合などでは、逃げ腰の体制も含めてまともにかからず、嫌がらせにしかならないことがほとんどとなる。

櫻井師範の四カ条を受けると、痛みはないが手首が動かなくなると同時に全身がピンとなる形にされてしまい、

そのまま自由に動ける状況ではなくされてしまう。感覚としては四カ条なのにもかかわらず、受けている感覚としては一カ条を受けて崩されている時と変わらない。

そしてこれらの技を全て自分から一歩進んで相手に掛けに行く稽古も行った。しかしそちらは非常に難しく、高弟であっても苦戦する稽古者が大きく目立った。というのも、櫻井師範に触れられると技以前に、接触した瞬間に下方向?に崩されてしまう為、そのあとの技は正直なところなんでも構わないのだろうと思われるのだが……まったく再現できないのである。決して大きな動きではなく、早い動きにも見えず、自分の体重を下に落とすような膝を抜くような動きもなければ、腕も肩もほとんど動かしていない。見ている限りでは相手の肘の外か内に手を引っかけているだけで、相手を崩している。引っかけて回転をすると横の回転軸が発生してしまうため、横方向への引っ張り動作となってしまう為、みんなが櫻井師範に掛けられて感じた方向に力が発生させられないのだ。体軸を傾けない為にも相手の手首を取りに行かない、という事だけは理解できたが……それだけである。

 

技をかけるというところまではまだたどり着けないが、接触した瞬間に相手を崩すような動きの入り口に立てれば、そこから先への稽古の段階が見えてくる可能性が非常に高い。自分から相手にアプローチして後の先ではなく先の先で相手に効果的な技をかける。それこそが「つき貫ける合気」という言葉のヒントの一つになる気がする。そんな事を感じさせる研究会であった。

<合気道S.A. 広報部>