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「つき貫ける合気」研究会レポート(B)

令和4年11月3日開催


令和4年11月3日、東京都立川市近郊において合気道S.A.主催による“つき貫ける合気”研究会が開催された。

“つき貫ける合気”とは櫻井代表師範の造語であり「相手の力の壁にある繊細な隙間から無理なく力を相手の体軸につき貫き技を掛ける合気技」という意味を持つものである。

今回の研究技は“肘極め・四方投げ・2ヶ条抑え”であり、第3クール目に突入し今回の研究会も更に興味深い研究内容となって来ている。

まずは肘極めからである。基本となる正面突きを捌いて肘極めに入る形での研究開始となった。肘極めという技は他流派・武道にある閂(かんぬき)といった技に姿形は似ているのであるが、閂(かんぬき)がテコの原理や力で極めていくのに対し、S.A.の肘極めはそういったものに頼らず力を入れずに両手を絞るようにして極める所に特徴がある。初心者や慣れていない人達が極めようとするとどうしてもテコや力に頼りがちであるが実際には殆ど力を使う事は無いのである。しかし見た目自体は閂(かんぬき)の形なので何とも不思議ではあるのだが…。ちなみにテコや力で極められた場合には肘の強さや更なる力で返す事が出来たりもするが、両手の絞りで極められた場合にはもうその形になった瞬間に終わってしまうので抵抗は難しかったりもする。

 

今回の研究会においては参加者はS.A.のそのような肘極めは出来るという前提で、更にその先である“肘極めの形になった瞬間に同時に相手の体を崩す”という点につき研究を行う事となった。肘極めだから肘が極まればそれで良いのでは??と考えがちではあるが、相手が肘が強かったり力が強かったりして極まり難い場合には相手の反撃を受ける可能性がある。そのような場合であっても体を崩して相手の腰や膝に力を通してしまえば、相手の反撃を封じその後は肘を極めたり投げたりするのも自由自在となるのである。

 

櫻井代表師範の技を受けてみると肘極めの形になった瞬間“カクッ”と腰が抜けてしまう不思議な感覚に陥る。肘自体の痛みはそれ程感じる事は無いが、その時点で抵抗・反撃は不可能となってしまうのである。代表師範によると相手の肘を極める事に拘らず相手の全身を捉え腰や膝に力を通す事が重要であるそうだ。その辺りの事を踏まえ参加者同士で技を掛け合って試してみるのであるが、肘は極まっても腰や膝へと力を通すというのは思うようにはいかない。どうしても肩が当たったり押したりしてしまったり、また肘を極める時に相手の身体を起こしてしまい相手を生き返らせたりしてしまうのだ。それらの点につき、お互いに頭を悩ませたり代表師範からアドバイスをいただいたりしながら研究を深めていったのであった。

次は四方投げである。四方投げは合気道の技の中でも有名な技であり、また重要な技でもある。しかしS.A.における長年の試合・組手の歴史の中でも最も極まり難い技の1つでもあるというのもまた紛れもない事実なのである。その要因として…技を知ってる者同士での真剣勝負では相手の腕をすり抜けたり背中を向けて回転したりするのが現実的でなかったり、すり抜ける際に脇を閉められてしまい容易に抵抗されてしまう等、また四方投げの態勢まで持って行けたとしても相手の本気の抵抗を受けるとそこから投げるのが非常に困難になってしまうという現実があるのだ。

 

今回の研究会ではこの四方投げの態勢まで持って行った後、どのように力を通せば投げる事が出来るのかに焦点を当てての研究となった。実際に四方投げの態勢まで行った後、相手との体格差・筋力差が物凄くあったり、横に捻ったりして投げるという事であれば可能かもしれないが、相手に体格差・筋力差で上回られた場合には不可能であるし、横に捻ったりというのも一度は通じても二度目以降は容易に対応されてしまうものなのである。そこで櫻井代表はS.A.における試合・組手の経験から“相手に抵抗する(反応する)力を感じさせず、尚且つ捻ったりする逃げの姿勢ではなく相手の一番自信を持っている強い場所(相手の中心)へ力を通す事が必要であり、そうする事により何度でも相手に技が掛かるようになる”という“つき貫ける合気”への閃きを感じ、御自身の技(即ちS.A.の技)へ改良を加え進化させていったのである。

 

事実、現在の代表師範の技はこちらが如何に本気で抵抗していても力が当たる事無く、あっさりふわりと倒されてしまう。我々が代表師範の技を受けた時に笑顔で倒されている動画を見る事もあるかもしれないが、あれは決して忖度して倒れているのではなく、ガッチリ本気で抵抗していても代表師範の力に反応する事が出来ず、また全く力が当たらないので余計な緊張や身体に力が入らないが故の現実なのである。その辺りの肝となる点についても代表師範の解説やアドバイスをいただきながら、参加者全員更に四方投げについての理解と研究を深めて行ったのである。

最後は2ヶ条である。2ヶ条もまた合気道の有名な技である。しかし、掴まれた手を大きく上に上げて技に入って手が離れなかったり、顔の前で2ヶ条の形から力を通して極めたりするといったものを動画等ではよく見るが、ショー的要素が強く現実的ではないのでは??との代表師範の考えもありS.A.ではそのような入り方は行われる事は無い。S.A.においては他の技と同様に、手首付近に手を添えてはいるが手首のみを極めるのが目的ではなく、相手の体を崩すのが本来の目的である。

 

代表師範の技は手首自体には痛みを感じさせないが腰が抜けてしまうという摩訶不思議な現象が起きるのだ。当然これまた他の技と同様手首に強い痛みを与える事は可能であるが、相手の手首が強かったり痛みに強かったりする場合には反対の手で容易に反撃を許してしまう。それを防ぐ為に痛みを与える事に拘るのではなく相手の体を崩す事を主目的とするのだ。腰が抜けてしまえば反対の手で反撃する事は不可能となり、逆にこちらは自由に攻めたら極めたりする事が可能となる。この場合もやはり相手の抵抗を無くす為にこちらの力を感じさせない、即ち持ち手を柔らかくふわっとさせ相手の中心へ力を通す事が重要であるとの事だ。

 

S.A.の全ての技に共通する事であるが、持ち手を柔らかくし相手の中心へ力を通す…言葉にすると簡単なようではあるが実際にはかなり難易度が高い。どうしても極めようと余計な力が入ったり、相手の中心を攻めてるつもりでも外に捻ってしまったりと、中々頭と身体が一致しないのである。この辺りは地道に稽古を積み重ね、身体を練り地力を上げて行く事で徐々に可能になっていく事であろう。千里の道も一歩から…である。しかし代表師範曰く“単純な身体に汗をかく稽古だけでなく、頭にシッカリと汗をかく稽古が必要”との事だ。正しく先の見えない霧の中を進むような不安なものではあるが、我々には代表師範という確かな指針があり、また代表師範御自身も現状で満足する事無く更なる高みを目指して日々精進しておられる歩みを止めない方である。我々も少しでも近づけるよう自身の努力を惜しむ事の無いようにしたいものである。

 

 


このように今回の研究会も内容の濃い大変充実したものとなった。

しかし、文章で見ても中々代表師範の技のイメージは掴み難いと思う。実際に技を受けている我々でも理解が追いつかないくらいであるのだから…。S.A.門下生、少しでも代表師範の技に興味を持たれたり、自分の技への悩みを抱えてる方達はこのような講習会に参加して実際に代表師範の技を受けてみる事をお勧めする。きっと期待を裏切らない、目から鱗の体験をする事が出来るであろう。

<合気道S.A. 広報部>