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「つき貫ける合気」研究会レポート

令和3年11月28日開催


令和3年11月28日(日)、東京都立川市近郊において合気道S.A.主催による「つき貫ける合気」研究会が開催された。“つき貫ける合気”とは櫻井代表師範の造語であり「相手の力の壁にある繊細な隙間から無理なく力を相手の体軸につき貫き技を掛ける合気技」という意味を持つものである。

今回の研究会においては“肘極め・四方投げ・2ヵ条抑え”についての研究が行われた。今回は他流派からの参加者もあり、S.A.独自の技について詳細な解説も行われる事となった。

まず最初は“肘極め”である。

“肘極め”とは相手の肘を自己の両腕で絡め相手の肘の曲がらない方向へ圧力を加え制し抑える技である。このような説明であると肘を両腕で上下から挟み込みテコの原理で極める技というイメージを抱きがちであるが、実際にはテコの原理で力で極めるというよりも、自己の肩を落とし両腕を絞り込むようにして極めていく”力を必要としない技”であり、肘の痛みにより相手を反抗不能にして極めるという事も当然可能ではあるが、代表師範によると肘を極めるというよりも“相手の下半身へと力を通し体を崩して相手の反抗を不可能にする事”が本来のS.A.の即ち代表師範の技である!との事である。下半身へと力を通し体を崩して反抗不能にしてしまえば後は肘をそのまま極めてしまう事も倒して制する事も自由自在という事なのだ。

まずは代表師範による“肘極めでの下半身の崩し方”への解説があり、その後各自ペアに分かれての研究となった。単純に肘を極めて相手を反抗不能にする点についてはS.A.で稽古を重ねている者であればそれ程苦労する事は無いのであるが…問題はその力を下半身へ通し体を崩す!という事である。各自色々と頭を悩ませながら試行錯誤を繰り返すがどうしても相手の肩に乗り掛かるように力を掛けてしまったり、自分の重心をずらす事で相手の下半身を崩そうとしてしまい…そうなるとどうしても相手に容易に反応されてしまい簡単に抵抗されてしまうのである。しかし代表師範の技を実際に受けると肩や腕に余計な力を感じる事無くそのまま力を通され下半身を簡単に崩されてしまう。何とも表現出来ない不思議な感覚なのである。肘を極めようとするのではなく、持ち手を柔らかく真綿で包むように添え身体全体を捕えた上で下半身へと力を通す事が大事なポイントであるとの事ではあるが、頭ではその説明を何となく理解は出来ても実際に自分の身体で体現するとなると非常に困難であった。

その後も色々と試行錯誤を繰り返したり、代表師範からアドバイスをいただいたりしながら各々研究を深めているとあっという間に時間が過ぎ去ってしまったのであった。

次は四方投げである。

四方投げは相手の腕を肩口へ折り込むようにして後方へ投げる技であるが、その動きの大きさや相手の反応により実際には中々掛かり難い技であり、S.A.の試合においても過去数度それも変型の四方投げが決まっただけという現実が存在する。それらの現実も踏まえた上で改良されてきたS.A.における四方投げは他流派と異なり一挙動で技を終えてしまう事が最大の特徴であり、その辺りも詳しく解説を行いどうしてそのような形になったのかも含め進めていった。

また四方投げでは上手く相手の肩口へと腕を折り込めたとしてもそこで相手に抵抗されると簡単に阻止されてしまう。そこで今回の研究会ではそこから如何にして相手に力を通すのかをメインに研究を行ったのであった。技を知ってる者であったり力のある者であったりするとこの段階で容易に抵抗される事に実感はあったので、この点についての研究は非常に興味深いものであった。各自またペアになり実際に技を掛け合うのであるが予想通り全く投げる事が出来ない!ところが代表師範の技を受けるといくらこちらが頑張って抵抗していても全く無意味でそのまま力を通され簡単に投げられてしまう。

頭を悩ませていると代表師範より“力が入り過ぎてる。余計な力を入れるとその段階で相手に力の方向を教えているようなものであり相手の抵抗を生む。持ち手は柔らかく真綿で包むように添え相手の身体全体を捕え捻ったり外に逃げるのではなく相手の身体の中へと力を通す事が大事である。”とのアドバイスをいただいた。またこの際、”相手の弱い所を攻めがちであるがそうではなく相手が自信を持っている強い所を攻め、そこをつき貫く事により例え相手が学習したとしても何度も技が掛かるのだ!”との事であった。そうして正しく何度も軽々と投げられるという不思議な体験をしつつ、研究を進めていったのであった。

最後は2ヵ条である。

この技においても他流派との違いが顕著な技であるので先ずはその辺りについての解説があり、その後、各自またペアになり2ヵ条において“如何にして相手に力を通すのか”という点につき研究を行なっていく事になった。2ヵ条とは合気道においてポピュラーな技ではあるが実際に下半身へ力を通して崩すというのは大変難しい技であり、小手先の痛みで倒せるのであればそれはそれで代表師範は”技として否定はしない!”と仰るが、稽古を重ねた者同士であると現実問題としてそれだけで倒すのは難しいと言わざるを得ない。

代表師範によるとこの技でも他の技と同様に“持ち手は柔らかく真綿で包むように添え小手先は放っておいてその部分に力を加えるのではなくそこは空間固定、そこへ背中側から発生させた力を通す事が重要”であるという。確かにお互いに技を掛け合うとどうしても持ち手部分を動かしてしまい、それによって相手に反応され抵抗を受けてしまうのである。

“空間固定と背中側からの力の発生”という事については稽古を重ね漠然とは理解出来始めてはいるのではあるが、真綿で包むように柔らかく添えた状態からそこを動かす事無く如何に相手に力を通せば良いのか、どうしても力を伝えようとすると力が入り相手に反応されてしまうという無限ループへ陥ってしまったのであった。今回は以上の3つの技の他に“小手返し”についての研究も加えたりと盛り沢山の内容であった事を追記しておく。

 

今回の研究会を通じ、代表師範の仰っておられる“全ての技は共通である”と言った事を再認識させられる大変良い機会となったが、その意味を本当に理解出来るのは稽古を重ね技を深めていったその先であるのだろうと痛感した次第である。

このようにまだまだ試行錯誤と研究・稽古が必要不可欠であると再認識させられた今回の研究会であったが、我々には代表師範という実際に理合を体現しておられるお手本が存在してる訳であり、それは求道者としては大変幸せな事でその目標へ少しでも近づく事が出来るように努力を重ねていきたいと強く感じた機会となったのであった。

 

今回は中部地方より他流派の方が参加されていたので、その方にお話を伺ってみると…“本当に不思議な感覚であり言葉ではとても他の人達に説明出来そうもない。しかし実際に櫻井代表師範から技を受ける事が出来て大変有意義な研究会となった。”との事であった。この方は大変熱心な方でS.A.以外の他流派の講習会等にも参加されているそうなのだが、中々その流派の代表の方が講習会において実際に参加者に技を掛けてくれるというような事は無いそうで、その点についても驚いておられた。代表師範は常々“自分の弟子にしか掛からないような技は技ではない。受け側が誰であろうと、どのような取り方・受け方をしようが受け側の自由であり、そのような相手に自由に技を掛けられるようでなければ本物ではない。”と仰っておられるが今回の研究会においてもそれを実践しておられた。

確かに代表師範の技は…他流派の先生方のようにお弟子さんを派手に投げ飛ばしたり痛みでのたうち回らせるといった見栄えのする??ものではない為に地味に??感じられてしまい、実際にその技を受けてみない事には動画等ではその凄さは理解し難いものであろう。

 

このように代表師範の技を実際に体験する事の出来る数少ない場であるこういった研究会等々の催しであるが、合気道S.A.では門下生のみならず他武道・他流派の方々へ広く門戸を解放している。少しでも現在の稽古・技への疑問をお持ちの方は参加されてみては如何だろうか??きっとその少しの勇気以上のものを得られる稀有な機会となる事であろう。

<合気道S.A. 広報部>