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「つき貫ける合気」研究会レポート(A)

令和3年2月7日開催


令和3年2月7日(日)、「つき貫ける合気」研究会第四回講座が開催された。

今回のつき貫ける合気研究会では、「つき貫ける天地投げ」「つき貫ける下段腕絡み」「つき貫ける一ヵ条抑え」の3種類の技を研究した。

天地投げは相手の両手に対して、片方の手を上(天)方向に、片方の手を下(地)方向に、同時に崩して相手の重心を一本の足にまとめ、倒すという流れのある技である。この技の難しさは、天と地の崩しが同時でなければならないというところがまず存在するのだが、そこだけに注力してしまうと腕の動きという末端の操作に意識が向かってしまう。

 

櫻井師範によれば、前後や上下ではなく、相手と自分の間に存在する球体に沿って相手を崩し、前足に相手の全体重を乗せてしまえば、最小限の力で技を施す事が出来るのだという。その為には「相手の両手を持つ」「相手に両手を持たれる」どちらであっても天と地に向かって直線的に誘導するのではなく、相手の形や力の出し方にそって誘導する必要があると思われる。そこが認識出来たうえでさらに言語化すると「相手と自分の間に存在する球体」となるのだと思われるが、認識は個人によって異なる上に、稽古の度合によって明確度が大きく異なる。

 

櫻井師範の技を受けると引き付けられるかのように前につんのめる形となり、結果として片方の足で踏ん張ろうとするのだが、そこに全身の体重が載せられてしまう。にもかかわらず横から見ていると腕は一ミリも後ろに下がらない、どころか全身も両腕も少しだけ前に出ている。受ける側が持っていても、持たれていても動きに差は全くなかった。

 

おそらく両腕を天地に切り分ける動作や前進するという動作一つ一つにコツがあるのではなく、それら全て含まれた全身一致の動きをする必要があるのだろう。

下段腕絡みは相手の片腕に対して側面から腕を絡ませ、相手が前傾する形となるように誘導し、背中側で極めてうつ伏せに倒す技である。この形になるように動きを練習していくと、どうしても肩固めなどのように肩の可動域を無くすようにキツく極めたくなってしまう。しかし実際には肩を極めるというところに注力すると力勝負になりやすく、体重差やリーチ差、腕力差がものをいう世界となってしまい、技としての面白みは減ってしまう。

 

この技に入るには相手の片手を背中側にスムーズに誘導する必要があるのだが、その動きは一つ前に練習した天地投げにおける地の側の腕を誘導する動きとほぼ同じだと櫻井師範はいう。確かに、腕絡みにいち早く持っていこうとして急いだ動きをしてしまうと、直線の動きとなりやすい。そして直線の動きは驚くほど反応されてしまい、防がれてしまう。直線ではなく曲線の動きで崩して腕絡みにまでもっていく必要があるという事は想像出来るのだが、やはりここでも外からは櫻井師範はわずかに直線的に移動しているようにしか見えない。肘や肩の動きなどほとんどないと言っても良い。膝や足首の動きもさほどスピーディではなく、なにか柔らかいモノの上を動いているかのようなスムーズな動きでしかなかった。

 

実際に受けてみると、なるほど確かに天地投げの地側の動きと理解できる流れが存在している。どちらかが上達すれば、もう片方も上達するであろうことは想像できた。

一カ条抑えというのは、合気道に限らず世界中で似た技が存在する。おそらく間接技というものを考えるときに、基本中の基本となる技としやすい技なのであろう。要するに「教えやすく、憶えやすく、それでいて効果的」なのだと考えられる。確かに相手の腕を伸ばすように手首と肘を抑えて崩し、そのままうつ伏せに制圧する。というのは聞くだけならわかりやすい。しかしそれだけに、技の解釈がとても広い技である。腕を伸ばすために、手首と肘をてこの原理を使って折る感じとする動きも存在するし、手首を返す事で肘と肩を同時に極めるという動きも存在し、微妙に上げて落とすことで波のような崩しを発生させて相手を倒す動きも存在した。

 

そんな中、合気道S.A.においては昇級昇段とも実にシンプルに、相手の手首と肘に手を添えて回転に巻き込む、という事を基本として練習している。相手の突きを捌いて一カ条抑えに持ち込む、というのは理想的な形だ。それだけにその技を成立させるためのハードルはとても高く、しかもいくつも存在している。

 

今回は抵抗する(技に反応した)相手に対して崩す事が可能かどうかを検証した。相手の突きの瞬間というのは腕が伸びているというだけでなく、腕に力が入っている。腕に力が入っている時には全身の力も漲っているのでそう簡単に崩す事は出来ない事が多い。それを崩すためにはやはり相手の腕を誘導することで、踏み込んできた前足に重心を移動させる事で一本足の上に全体重が載っている状態を作りだす必要がある。

 

何度もたくさんの人と練習をしていくと、天地投げの地側の腕の動きや下段腕絡みに入る時の動きにも似た動きが内包されている事が見えてくる。一カ条に入る際の崩しが出来るようになるということは、下段腕絡みと天地投げも出来るようになるという事実が見えてくる。

 

逆を言えば、苦手な技があるということは実はどれも上達していないという事実にも突き当たってしまうが…

技の根幹は一緒であって、一つ一つの技のコツなどを追い求めていると一番重要な部分が抜けたままになってしまうという櫻井師範の言葉の重みを改めて感じた。

 

今回の研究会で第一期の技は全て終了となり、次回から第二期が開始される。一期目の一回目に櫻井師範が仰られた、相手の「力の壁の隙間」に対して自分の「繊細に収束された力」を通して内部に作用させることで、相手の末端を無視して、直接相手の力の始動点となる下半身、核に自分の力をつき貫けさせる。という作用の難しさとその有効性を理解出来たという事が収穫だったと言えるだろう。

<合気道S.A. 広報部>