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「つき貫ける合気」研究会レポート

令和5年7月16日開催


令和5年7月16日(日)、つき貫ける合気研究会が東京近郊で開催された。

今回のつき貫ける合気研究会では、「つき貫ける上段腕がらみ」「つき貫ける正面入り身投げ」「つき貫ける三ヵ条抑え」の三種類の技がテーマとなった。今回の3つの技はどれも、比較的抵抗する際の力を出しやすいという共通項がある。どの技も手に力を入れた瞬間にどの方向に掛けようとするかバレてしまうからではないかと思われる。

 

「上段腕絡み」は相手の腕を両手で絡め、後方に崩し倒すという形になるのだが、両手で相手の一本の腕をしっかり挟み込むことが出来るためつい力に頼りがちとなってしまう。動きの中で崩しながら両手で挟み込み、力に頼らず誘導が上手くいくと相手の膝が曲がった状態となり、後方に足を出す事も出来ず後方下に潰れる「しかない」形に追い込むことが出来る。

櫻井師範は動きの中で小さく崩してくるだけなのだが、受ける側としてはその崩されが「始まった瞬間」にすでに技に入れられている為、いわゆる上段腕絡みの形に持ち込まれる前にもう両膝が曲げられていてもう立て直せない状態にされているという感覚がある。自分から掛ける場合には相手の肘に手をかけて崩した瞬間に上段腕絡みの形に持ち込み、動きの中で素早くスルリと崩し潰すような動きとなっていた。が、非常に難しく稽古者は皆苦戦していた。

「正面入り身投げ」は相手の首に自分の肘周辺を接触させて相手を後方に崩し倒す技である。ただどうしても肘辺りを接触させる際に勢いがついてしまい、いわゆるラリアットの形となりやすい。そうなると相手は足を後ろに下げてしまい、強い体勢に変化されてしまう。やはり相手を動きの中で前方に動くように崩しておいて、そこに掛ける形がとれれば相手の膝が曲がり、その場から足を動かす事が出来ずに後方下方向に潰れる形となる。

 

相手が前方向に力を出している状態に対して接触すると同時に相手がさらに前に出るように崩しておいて、そこに正面入り身投げをスムーズに掛けられると、勢いさえあればそのまま相手が首を中心に両足を前に振り出すようなカウンター的投げとなるだろう。櫻井師範の技はさらに相手の内部の力を破裂させる事によって、そこまで激しくしないけど相手側が仰向けに倒れて次の動作を取れないような手加減出来る技が出来るようになるという言い方をされていた。相手の内部の力を破裂させるという凶悪そうなお話にも関わらず、それが出来るようになったらもっと手加減しても相手が倒れる形に持っていきやすいという話をされていたのが印象的だった。自分から掛ける正面入り身投げは動きとしては上段入り身投げよりもスムーズに掛けられる稽古者が多いように思われた。これは多分、崩された時に手足はまだ動かす事が出来るが、首や胴体は割と動かす事が難しいからなのではないかと思われる。

「三ヶ条抑え」は比較的初心者でも形をそれらしく作りやすい技である。しかしその形を作って相手に痛みを与えることは割と簡単に出来たとして、そこから相手を崩して倒すところまで持っていくというのが難しい技でもある。技の形をとろうとすると、相手の手の甲に対して自分の掌を包み込むように添えて深く指を掛けるというのが元々の形ではあるのだが、そうするとどうしてもその形を取るために自分の手の親指に負担がかかり、それをなんとかしようとして無理のある力に頼ってしまうことになりやすい。

 

最近の櫻井師範の技としては、相手に深く指を掛けることはせず引っかけるようにして相手の身体全体を崩す形とすることで自分の親指への負担がかからず相手に力を流してゆく形となっている。相手の手をしっかりとホールドしていないことで不安を感じるため、しっかりと相手の手を固めたくなってしまうというのは理解できるのだが、自分から相手の肘あたりに手をかけて崩しておいてそこに三ヶ条で入る、というような動きの中で掛けていく場合には自分の動きを制限しないのが実感できた。

今回、櫻井師範は膝を崩すやり方をまず見せてくれたが、それは比較的簡単に再現できる可能性があるという。

 

櫻井師範が今研究しているのは、相手の力の中心となっている個所を内部から破裂させるという感覚のある技というものだという。外から見てみる分には崩れ方などは似ているのだが、実際に受けてみるとかなり異なる。膝を折られて体勢が崩されて倒されるというのが膝を崩すというやり方の技で、受けた感じでは比較的力の浸透されてくる方向がわかりやすい。対して、相手の力の中心を内部から破裂させるという感覚という技は、受けた瞬間全身に揺さぶりを受けてしまい受け身を満足にとる事が出来ない状態にいきなりされてしまう。受けた感じでは目の前の櫻井師範が横方向に少し移動しただけなのに、凄い速度で自分を突き抜けるように力が流れて下方向に落とされているというような感覚だった。

 

地震体験車に乗った時に、何もできず瞬時にペタンと地面に尻餅をつかされた時の感覚が近い。浸透してくる力の方向も強さも今の自分では感知出来ないため手掛かりを得られないのがもったいないが、そういう力を相手に伝えるという技術が存在するという事を体感できたのは大変興味深い。前々から土台を崩す必要があるというのはさんざん櫻井師範に言われていた事だが、土台の崩しかたが進化してきているのか、本当に“動きの始点”で崩しておいてあとは相手の崩れを立て直さないように誘導して地面に倒すという形でもって無駄が極力省かれたものとなっているのではないかと思われる。

<合気道S.A. 広報部>